この御位牌を作らせてもらったのも一通のメールからでした。
内容は亡き奥様のためにオリジナルの御位牌を作っていただきたいということでした。亡くなられた頃は奥様が大切に育てていた月下美人が例年になく多くの花を咲かせていたのだそうです。
そのお話をお聴きし、法要の日も差し迫っておりましたが、”月と月下美人”というテーマでデザイン案を描かせていただきました。
左上に月、右下に月下美人の花をレリーフで彫り、中央に御戒名を配し、彫る面を曲線にすることで花が月を見上げるようなデザインにしました。
使用した材はカエデの木。
今では国産のカエデは流通がとても少なくなりましたが、ちょうど指定のサイズにピッタリのものが残っていたのと、カエデは木質が綿密で硬質なため細かい細工をするのに適しているのでこちらを選びました。
堅くて彫るのに苦労しましたが、その分細部の彫りが際立ちます。レリーフですがシベや花びらの質感までこだわり仕上げていきます〇
最後に着彩し、全体にオイルコーティングを施し完成です◎
月下美人は夜に咲く花。
最初月と花以外は漆黒にし夜を表現しようと思いましたが、奥様のお写真を拝見したとき、周りの人を明るく照らすような印象を強く受けたので、どうしても漆黒のイメージが合わないように思えました。
そこで”明るい夜”というテーマで全体をまとめようと考えました。
暗い雰囲気にはしたくなかったので漆黒にはせず、オイルコーティングであえて色ムラをつけることで月下美人が咲き誇り、月明かりが煌々と照らし出す月夜の幻想的な雰囲気を表現してみました。
私は伝統的な御位牌も作り続けていますが、最近ではこういった世界で一つの御位牌をデザインし、提案させていただく機会が増えてきました。
御位牌は一度作ればその先ずっと時間を共にしていくものですからご納得いただける御位牌を作り続けていきたいと思っています。
ご依頼主が御位牌を引き取りに来られた時の「大切にします」という一言、すべての苦労が報われた瞬間です〇
仏師 宮本我休 合掌
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