賀茂御祖神社(下鴨神社)様からご依頼いただいておりました獅子狛像が完成いたしました。
彫刻はもちろん、使う材料と技法にこだわり、着手からおよそ一年半をかけて造り上げました。
今年7月1日に竣工される祈祷殿に安置されます。
阿形の獅子です。
低く唸るように咆哮し、眼光鋭くにらみを利かせます。
諸悪に対して今にも飛びかからんとする姿形、筋肉が隆起し臨戦態勢が整った状態です。
獅子は金箔の上に金粉を撒く「拭い粉」という技法で金色に仕上げています。
この技法は仏像の肌などによく使われます。
箔を押し、その上に粉を撒くわけですから手間もコストも通常の倍以上かかりますが、その分表面の起伏や陰影がはっきりし、落ち着いた輝きとなります。
筋肉や皮膚の質感にこだわった今作においては最上の技法です。
筋肉の起伏や皮膚の質感、内臓まで意識して彫り現しています。
空気を吐いているのか、吸っているのか、呼吸も意識します。
そういった細部へのこだわりが違いを生むと信じています。
一定の秩序をもって流れるような毛筋は獅子が持つ神力を強調させます。
柔軟に変形、可動する背骨。
獅子の胎内には由緒などを記した木札が納められています。
この中身を確認されるのは何百年後でしょうか、想いを未来に託します。
天然水晶を削りだした玉眼。
極限まで薄く削り出すことで理想の眼光を創り出すことができました。
無理なお願いを聞いていただいた玉眼師さんに感謝です。
金色の獅子に対して白銀の狛犬です。
こちらはあたりを警戒しているようなイメージ、臨戦態勢が整った獅子に対して、少し緊張感のほぐれた筋肉表現です。
違いが分かりにくいかもしれませんが、作家としてはそこまで意識しているんです…。
日本で最後の一人となった金沢の箔打ち師・高橋さん作の貴重なプラチナ箔二度押しし、その上に更にプラチナ粉を撒いて仕上げてます。
非常に贅沢な仕様ですが、今回の狛犬を表すには欠かせない工程です。
毛の色は金地に緑の獅子に対して、狛犬は銀地に青。
この独自の角は賀茂御祖神社(下鴨神社)本殿にお祀りされているおよそ150年前に造られた狛犬のものと同様です。
鋭利に削られたような形状は他に作例が見られず、賀茂御祖神社独自の表現と考えられます。
制作当初はこの独特な角が馴染むかどうか心配でしたが、今となってはこの角でしか表現できない狛犬になったと思います。
金と銀、二尊一対の獅子狛完成です。
こだわり抜いて仕上げた獅子狛像、あとは納品、祈祷殿竣工を待つのみです。
僅かな時間ですが、完成の余韻に浸りながらその時を待ちます。
【獅子狛像これまでの軌跡】賀茂御祖神社(下鴨神社) 獅子・狛犬造立へ〇 | 京都の仏師 宮本我休(GAKYU ガキュウ)