賓頭盧尊者とはお釈迦様の弟子の一人で神通力に優れていたことから今では病んでいるところを撫でると病が治るとされ広く信仰されています。
修復前の状態ですが、やはりよく撫でられていて表面がツルツルに磨かれていました。
先ずはお湯につけ表面の塗装を剥がしていきます。
こうして洗い落とすことで分かったのですが前に一度修復がされていて、その時洗い落とさずに上から漆を再塗装されていたということがわかりました。
厚く塗装されていたので玉眼や細部の彫りも埋まっていて、洗い作業で本来の姿が蘇っていきます。
埋まっていてわからなかったのですが、洗い落とすとこの御像が作られた日付や銘が出てきました。
十分に乾燥させた後、組立作業に入ります。
各パーツごとに欠損している箇所や虫が食っているところを新しい部材に取り換え、作者の彫り癖を見極めながら馴染ませていきます。
彫りの角が摩耗しているところは刀を入れ、形を整えていきます。
特に目の付近の損傷が激しかったので瞼を作り直し、埋まっていた玉眼を清掃して嵌め直していきます。
眼が入ると仏に魂を感じます。やはり眼は重要な部分です。
接合部分に鉋をかけ面を整えてから各パーツを接着していきます。
木地組立完成です〇
次は塗り作業。ここからは私の手を離れ、塗師(ぬし)と呼ばれる職人さんの仕事になります。
先ずは木地固めとして最初に木漆を刷り込み、継ぎ目などには麻布や和紙を貼って補強していきます。
胡粉を膠で練ったものを下地材として全体に塗布していきます。
その後砥の粉を膠で練ったものを全体に付け、その上に胡粉下地を何度か塗り重ねた後、様々な種類の砥石で研ぎ、滑らかにしていきます。
全体が研ぎ終わりいよいよ最後の総仕上げ、うるみ漆を塗っていきます。
乾燥させては塗る、を三回行い完成です。
台座も完成し、長年撫でられ続け傷んでいた状態から制作当初のお姿に甦りました。
特にお顔の変化は秀逸で、上から塗り重ねられていたことで埋まっていた眼や一本一本彫られていた歯などが現れ、しっかりとした本修復をすることの大切さが今一度再確認されました。
仏像の修復はそう頻繁に行うものではないので、いざ取り掛かる際にはしっかりとした修復をして後世に本来のお姿を残し続けていければと思います。
うるみ漆は時間と共に色が透け、赤みをまして趣のある色調に変化していきます。
そしてまた信仰され撫でられ続けることで味わい深い仏になっていってもらえればと思います。
仏師 宮本我休 合掌