身丈3寸(座面から頭髪生え際まで)ほどの小さな如意輪観音像の修復をさせていただきました。
制作年代は江戸時代の作と思われますが、仏身、台座、御厨子とともに技巧がとても高く、細部までこだわりぬいた傑作です。
そんな江戸時代を代表するような本作も数百年の経年劣化で損傷が激しく、腕や蓮華の大部分が欠損し、構造も不安定な状態となっていました。
今回は古めかしい状態はそのままに、欠損箇所や構造の安定性を高める修復をしていきました〇
修復前の状態です。
仏身は右の三臂がすべて欠損し、指先や耳、衣の端など細かい部分も欠けています。
ここからは修復工程を見てきます。
本作は非常に目の細かい桧で作られていますので、同じように質の良い桧を使用し、欠損部分を新たに補填していきます。
如意輪観音様を表す上で最も重要な思惟の表情。
他の作では右の掌全体で頬を抑える表現が多いですが、今回は右ほほに一点指の跡のようなものが残っていたのと、現存していた肘からの距離を鑑みて画像のように指先を頬にあてる表現であったと推測し、そのように制作することにしました。
ピンポイントで頬に指をあてるように作るのはとても難しい作業でした(^^;
続いて右手2手。
右手3手も制作します。
右耳も。
左手の指先も新たに補填します。
繊細な作業が続きます。※指先には輪宝を固定するための極小の竹くぎを仕込んでいます。
それぞれ持ち物も制作します。
台座の茄子座も欠損していたので新たに新調します。
御厨子の小足も欠損していたので新調し、安定させます。
本作で特徴的なのは蓮肉部分と仏身が一木で作られていること。
蓮肉と仏身は当然分けた方が作りやすいのですが、あえてそうしているのは足下衣の裾の彫りを少しでも薄く見せるためではないかと思われます。
この効果でリアリティのある衣文表現が可能になっている…恐るべし!(^^;
台座で特に苦労したのが蓮華部分。
おそらく本作は過去に一度修復されている可能性があり、その際に蓮華の花びらが乱雑に張り付けられている状態でした。
そのままでは美観を損ねるのと、強度にも不安があるので、残っている部分はすべて取り除き、新たに花びら部分を新調していきました。
一枚一枚竹くぎを中に仕込みながら丁寧に取り付けていきます。
手間はかかりますが竹くぎを仕込むか仕込まないかで数百年耐久性が変わってきます。
修復は見えないところに如何に手間をかけれるか、それがとても重要なんです(^^)
欠損部分の補填が完了しました〇
ここからは古色(古めかしく着色すること)による色合わせ作業を見ていきます。
現存部分は一見黒っぽい単色に見えますが、数百年の時間で複雑な色調に変化しています。
複数の色を組み合わせて色味を合わせていきます。
茄子座も埃っぽい感じを色で表現していきます。
蓮華の花びらも一枚一枚着色していきます。
完成です〇
古色を施し、どこを直したのかわからない!のではないでしょうか(^^)
以下before&afterです。
before
after
before
after
before
after
before
after
before
after
before
after
before
after
厨子の小足もしっかりと古色を施しました〇
江戸時代の仏像は過去に比べて技巧がとても成熟する時代です。
道具が発達したこともありますが、大きな戦乱がなかったり、世の中が安定しだしたからこそ当時の仏師は技を磨くことに集中できたのではないか、と私は考えています。
本作はそんな江戸時代特有の技巧に富んだ傑作ですが、台座の極めて細やか文様彫りや、小像ながらも仏身の繊細な造りには驚愕させられます(^^;
今回のように欠損したところを部分的に修復していくには、徹底的に作られた方の技巧に合わせていく必要があります。
江戸期の高度な技に現代の技で応えていく、非常に難度の高い修復となりましたが、造られた当初の優美な御姿にもどすことができたのではないかと思います。
これからも一体でも多く名作を次の世代に遺すことができるよう精進してまいります(^^)
【宮本工藝修復実績】仏像修復 | 京都の仏師 宮本我休(GAKYU ガキュウ)
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