広島市の真言宗寺院・浄心院様からご依頼いただき准胝観音像を謹刻させていただきました。
身丈1尺1寸(総高100㎝)、総木曽桧造り、漆箔極彩色截金仕上げです。
彫刻と彩色は当方が担当しましたが、漆、金箔、金具、截金はそれぞれ専門の職人にお願いし、想いと技巧が合わさった唯一無二の准胝観音像になりました。
准胝観音は七倶胝仏母(しちくていぶつも)とも呼ばれます。
「七倶胝」とは無量無限大のことで、過去無量の仏がこの准胝観音より生まれたとされ、あらゆる仏の母であることから子授けや安産祈願の仏様として信仰をあつめ、修道者守護、罪障消滅、無病息災、除病平癒、延命等の功徳があるとされています。
御姿は一面三眼十八臂。
扇状に開いた手は遍く衆生を救う光となります。
造形としては全ての腕が胴から出ているように表現しないといけないので、不自然にならないよう工夫を施す必要がありました。
試行錯誤を繰り返し、理想の多臂像を具現化できたと思います。
今作が独立後初めての極彩色仕上げとなりました。
古めかしい寂びた美も理解していますが、極彩色の美しさもまた良いものです。
あらゆる色と刺激に満ち溢れた今の世の中ではピンとこないかもしれませんが、昔は今よりも色に対する渇望があったはず。
そうして仏教における極彩色は生れたと考えています。
これがまた時代を経て寂びてゆく、 無常の美です。
「七仏倶胝仏母心大准提陀羅尼法」には「准胝仏母の密法によって清廉潔白の身となり心の清浄を得る」とあります。
その潔白と清浄を表す衣の白色には特にこだわりました。
なめらかな薄絹をイメージし、落ち着いた透き通るような白色を目指しました。
台座では眷属である二体の龍王、難陀・跋難陀龍王が支えます。
蓮華の軸に巻き付く構図は美観と強度を兼ねた着想です。
仏像は台座等の荘厳も含めて世界観を表現します。
古い像ほど台座と光背は取り替えられてしまっている例が多いですが、今作はどこまでも御仏身と共に残り続けてほしいという想いがあります。
龍王の絶大な力に呼応するように波はうねり渦巻きます。
絶え間ない流れとスピード感、
意図を損ねず、より彫刻を昇華させる彩色で仕上げました。
宝冠や胸飾りは専門職・飾り金具師さんにお願いしました。
梵字を彫り込んだ五智宝冠や膝まで掛かる唐草透かしの胸飾り、どれも素晴らしい出来映えです。
准胝観音像は様々な持物を手にしています。
数珠、宝鬘、羂索、宝幢の旗以外は全て木彫で制作しました。
細部までこだわった彫刻を活かす漆と金箔、塗師と箔押師の高い技術が光ります。
斧。
鉤。
宝鬘。
三鈷杵。
小さいですが法具として実際に使用できるレベルで制作しています。
数珠。
剣。
本当に切れそう…。
微惹布羅迦菓。
カボスのような外観です。
羂索。
法螺貝。
輪宝。
経典。
紙の折り重なりも彫刻しています。
水瓶。
満開の蓮華。
宝瓶。
たなびく宝幢。
蓮華、仏身には截金が施されています。
截金とは、4、5枚重ね合わせた金箔を均一に細く切り、直線と曲線で様々な柄を表す飛鳥時代から伝わる伝統技法です。
こちらも専門の截金師さんにお願いし、蓮華花弁に光筋、仏身には七宝・立涌・丸花紋、三種類の伝統文様を施していただきました。
特に天衣後ろの七宝柄は圧巻です。
光背で見えないのが惜しいですが、それもまた粋というものでしょうか。
およそ4年がかりで制作した本像。
完成し納品を待つ姿に想いが込み上がります…。
先日開眼法要が執り行われました。
木彫刻から佛に変わる瞬間です。
然るべき所に鎮座されて心なしかキリっとされたような、風格を纏われたような、、
手元を離れ遠いところに行かれたな、という印象です、感慨深いですね。
檀信徒さんの想いを受け出来上がった准胝観音さんです。
末永く愛され信仰を集める仏様であり続けてほしいです。
この准胝観音像は私だけではなく、塗師、箔押師、金工師、截金師と一つの技を極めた専門の職人さん達や檀信徒さんの想いとそれを受けたお寺様の情熱で現れたと思っています。
技術面においてはそれぞれのパートで会心の出来であり、技巧と想いが合わさった唯一無二の作となりました。
※↑写真は弟子入り1年目
修行時代、正月休みは自由な制作ができる格好の時間でした。
大晦日はいつも彫りながら年を越して、休み最後の日はいつも醍醐寺・上醍醐に登って諸仏に対して新たな一年の抱負と誓願、無病息災を祈願しにいくことがルーティンとなっていました。
弟子入り3年目の夏、上醍醐は落雷により准胝堂が全焼。
私の誓願と想いだけではなく、時空を超えて数多の願いを受け止めてきた准胝観音様が幻となりました。
一報を聞いたときの落胆と無力感はいまでも身体に染み付いています。
それから月日が流れ、巡り巡って真言宗醍醐派・浄心院様から准胝観音像造仏のご依頼をいただきました。
ご要望はやはり消失した上醍醐・准胝観音像をこの世に現し戻すことでした。
ご縁とは不思議です、
この令和の時代に自分の感性と持てる力を出し尽くして後世に残る准胝観音様を現すことができたと思っています。
人々の拠り所として末永く在り続けてほしいと願います。
これからも研鑽を積み重ねながら、天命を全うするまで日々造仏を楽しみます(^^)
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