今回のご依頼は私のホームページからメールをいただき、先日お亡くなりになられた奥様の御位牌を作っていただきたいというものでした。
お話を詳しくお伺いするとご依頼主はデザインのお仕事をされていて高い見識をお持ちで、形など細かい指定と設計図までご用意されていてました。
いつもはこちらからデザインをご提案させてもらうことが多いんですが,今回のように細かい指定をしていただいているのも作り手としてとてもやりがいを感じます。
いろいろとご指定がある中で一番難しいことは下方の台になる部分の出っ張りを貼り付けではなく一木造り(一つの木から貼り合わさずに作ること)で仕上げることでした。
なぜ難しいかというと出っ張りがあることで鉋がかけられないので平面部分はすべて彫刻刀で仕上げていくしかないからなんです。
彫刻刀で平面を出すにはとにかく時間をかけて少しづつ平面を出していくしかありません。材は非常に硬質な桜を用いていますのでとても根気のいる作業となりました。
作業としては非効率に思えますが一刀一刀削るごとに想いが入っていく感じがして仏像の仕上げ作業のようでこれもまたいいなと思えるのです。
木地が完成したら次は御戒名を入れていきます。
この御位牌は形がシンプルなだけに御戒名の字の力が大きいと考え今回私の書の先生でもある書家の高岡亜衣先生に書をお願いすることにしました。
奥様のお写真を横に置きながら100枚以上書いた中から5種類の書を提案していただきました。
『光柔らかく、ゆったりとした空のようなお心、明は凛と優しく、大きな心で照らしている』先生の御戒名の解釈ですが、とても奥様のイメージをとらえていて素晴らしいと感じました。
『作品に魂を宿らせる』そんな先生の書家としての姿勢、仏師として学ぶことが多いです。
この中から選んでいただきいよいよ文字彫り作業へ。
一文字一文字気持ちを込めて彫り進めます。
最後に文字に金色を入れ完成です〇
梵字のキリークは阿弥陀如来を表していて、御戒名と差をつけるため少し重めの金色に仕上げています。
先日無事納品を終え四十九日法要も思い出の地でご家族と僧侶の方だけで営まれました。天候にも恵まれとても素晴らしい法要になったとご報告をいただきました。 とても喜んでいただけたようで仏師として冥利に尽きる思いです。
私は修行時代仏像彫刻の基礎技術は御位牌の制作から学びました。
今でも伝統的な御位牌を作らせていただくことが多いですが、こういった新しい形であっても何よりも”想い”が大切なんだなと思いました。
そぎ落とした形だからこそ御戒名が活きてくる。素敵な御戒名をより一層引き立てる、そんな御位牌になったと思います。
これから代々大切に引き継いでいっていただければ幸いに思います。
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