京都の日蓮宗寺院、蓮久寺様からご依頼いただき堂内の諸仏を修復させていただいております。
先ずはご本尊である三宝尊の修復がこのほど完成し、先日納めさせていただきました。
胎内には「寛文六年作」の墨書。
357年という年月を経て令和の時代に造立当初の御姿に蘇らせました。
お預かりした時の状態です↑
修復後↑
修復前↑
修復後↑
修復前↑
修復後↑
修復前↑
修復後↑
ここからは修復工程を追っていきます。
先ずは一旦解体して継ぎ目や欠損部分を補修していきます。
ご本尊が鎮座される蓮華の花弁を一枚一枚取り外し、再度塗装がしやすいよう着脱ができるように接合しなおします。
この作業だけでも膨大な時間がかかってしまいますが、こうすることで塗りも箔も仕事がしやすく、組み上げたときに美しい仕上がりになります。
どこにどの花弁が取り付けられていたか記録しておきます。
宝塔下の蓮華も同様に処置していきます。
数段に重ねられたパーツも全て解体し、接合部分を整えて再接合します。
この作業は全体の強度を左右するので、慎重に作業を進めます。
宝塔屋根部分です。
長い年月で角が摩耗しています。
こういった部分も新たに部材を補填して形を整えていきます。
宝塔最上分の相輪も欠損個所が多く、新たに補填します。
宝塔側面の補修。
台座の欠損個所も新たに補填していきます。
現存する箇所を参考に形を合わせます。
框の付け回し部分は唐草透かし彫りとなってましたが、摩耗が激しく新たに作り直すことになりました。
今後のことも考えより強度を優先し、透かし彫りではなく全体に地紋彫を施しました。
秩序だった文様がズラッと並ぶと壮観です(^^)
ご本尊の光背です。
飛天と迦陵頻伽を配した技巧を尽くした造りです。
造りが細かい分、腕や持物の楽器などがほとんど欠損している状態でした。
一つ一つ補填していきます。
飛天の腕や手を補填。
迦陵頻伽の羽補填。
古楽器の鈸(はち)補填。
鼓も新たに補填しました。
ここからは釈迦如来、多宝如来、両仏身の修復です。
解体し、表面の塗装を剥がしていきます。
解体すると、胎内に墨書が見つかりました。
寛文六年は西暦にすると1666年、今から357年前に遡ります。
時代は江戸時代初期の徳川家綱政権期、この御像が造られる4年前の寛文2年には京都で大地震が起こった記録があります。
蓮久寺が開かれたのは寛文元年、通常開山と同時にご本尊は安置されるものですが、その5年後に造られたのは、当初開山と同時に造られたご本尊が地震により損壊、または焼失し、機を見て新たに本像が造られたのではないかと推察しております。
細部まで技巧を凝らした造りやご尊像の素晴らしい出来を見る限り、並々ならぬ思いで造られていることは確かです。
解体・洗浄後の状態です。
多くのパーツで構成されています。
乾燥期間を経て組立開始です。
バラバラになった各部を接合しなおしていきます。
御顔の修復です。
瞼などの細かい欠損個所は木屎(木くずと接着剤を練ったもの)で充填します。
玉眼を洗浄し、再度はめ込みます。
裏側から瞳を彩色して眼を作ります。
真綿を入れ木型と竹釘で固定します。
御顔の完成です。
各部組み上げていきます。
今回の御像で特質すべきはやはりこの合掌の手の造りです。
右手左手共に一つの塊から彫り出すのが通例ですが、この御像の場合両手が別々に作られています。
こうすることで「合掌しているようにみせる」のではなく、本当に(物理的に)合掌しているように意図して造られているこのは明らかですが、この方法は強度の低下と造形としての完成度も落ちてしまうというリスクも含まれているため、仏師として進んでこの方法を取ったかは疑問が残ります。
考えられるのは、このご本尊を勧進した当時の御住職が仏師に指示したのではないかということ。
現住職の三木大雲上人も合掌に対して強いこだわりを持っておられました。
初代住職から38代を経て時空を超えた「合掌への想い」が共鳴しているように感じました(^^)
美しい合掌姿、釈迦・多宝如来仏身が組みあがりました〇
ここから塗りの工程です。
多くのパーツで構成されているため複数個所にわたって継ぎ目ができます。
これだけ年月が経っていても木は呼吸し動きます。
後に表層の割れを起こさないよう継ぎ目に紙を貼っていきます。
この一手間が御像そのものの耐久性を大きく向上させます。
像底には紗(織物)を貼って更に強度を高めます。
漆を塗る前に下地を塗布する作業です。
下地は胡粉や土と膠を練ったものを塗布し、研磨を繰り返して表面を整えます。
実はこの下地作業がとても大事で、御像の容姿を左右する作業になります。
仏像を専門とする仏師塗師(ぶっしぬし)の職人さんの腕にかかってきますが、今回も像容を損ねることなく素晴らしい仕上がりに(^^)
下地作業を終え、漆を塗って塗り工程完了です〇
数日かぎりの漆黒の御姿、写真を撮って早々に箔押し工程に移ります。
箔押し作業です。
衣部分は金箔を、肌部分は金箔+金粉で仕上げます。
金箔を押す技術も匠の技です。
接着剤である漆をふき取る加減にきれいに仕上がる秘訣があります。
古色仕上げであれば自分でも押すこと自体は可能ですが、新調仕上げとなるとやはり専門の職人さんにお任せしないと求める完成度に仕上げることはできません。
古来からの修復文化は技を継承することにも寄与しているんです。
金具も欠損部や劣化が激しく、新たに新調と金鍍金を施し蘇らせます。
完成です(^^)
357年という長い年月を経て造立当初の御姿に蘇りました。
掌どうしを合わせた合掌。
これまで何百体と仏像の修復に携わってきましたが、この仕様は初めてでした。
漆の塗り厚も考えてぎりぎりまで調整が続きましたが、しっかりと復元することができました(^^)
過日のご納品時の様子です。
お預かりして約1年、神々しい御姿になって無事お寺に戻られました。
御本堂も現在修復中で仏様も新しくなった空間に少し戸惑われたかもしれません(^^)
慎重に設置します。
設置完了です〇
なんと御本堂の天井は総漆塗りの蠟色仕上げ。
磨き上げた天井に金色に輝くご本尊が浮かび上がります。
最後に御住職の三木大雲上人と。
御住職はこれまでご経験を怪談説法として発信され、仏教の布教に努められています。
私も以前から存じていて、発信されている説法にとても感銘を受けていました。
そんな三木御住職との出会いは不思議なものでした。
御本堂の修復と同時に諸仏の修復を検討していたところ、突然「宮本」という名前が思い浮かばれたそうで、そこからご連絡いただき修復をさせていただくことになったのです。
お電話いただいた時はびっくりしましたが、歴史ある蓮久寺の尊像修復というご縁をいただき大変ありがたい想いでおります。
今回修復させていただいた三宝尊は技巧に優れた特別なご尊像でしたが現在修復中のその他の諸仏も素晴らしいものです。
また気持ちを新たに引き続き修復に取り組んでいきたいと思います。
【宮本工藝修復実績】仏像修復 | 京都の仏師 宮本我休(GAKYU ガキュウ)
仏像・位牌の彫刻・修復、木彫に関するお問合せ
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