ご依頼いただき浄土宗阿弥陀三尊像の修復をさせていただきました。
江戸時代に造られた像ですが長年の経年劣化でとても傷んでいましたが、新たに解体修復することで造られた当時の御姿に甦りました〇
※左 修復前、右 修復後
ここからは修復工程を紹介していきます(^^)
【宮本工藝修復実績】仏像修復 | 京都の仏師 宮本我休(GAKYU ガキュウ)
先ずは像を解体し、洗いをかけて表面の塗装を取り除いていきます。
仏像は基本的に木製ですが、その上に下地を施し、さらにその上に漆を塗り、金箔を押す(貼る)ことでできています。
本像は漆と砥の粉(土)を練った「堅地」という下地が施されていましたが、これは水ではなかなか融解されない性質のため取り除くのにとても手間がかかりましたが、彫刻刀やブラシを使い、根気強く慎重に取り除いていきました。
御本尊の阿弥陀如来像の洗い、解体後です。
解体するといくつものパーツで構成されていることがわかります。
十分に乾燥させた後は木地の組み立て作業です。
欠損している個所は新たに補填し、虫が喰っているところなどは取り除き新たな部材を補填していきます。
本像は桧で造られていますので補填する材も桧を用います。
これは木の相性の問題で、同じ針葉樹、特に同じ種類の木を使うことで馴染みがよくなります。
胴体が組みあがってきました〇
バラバラだったものが形になってきました。
次は頭部の組み立てです。
本像は玉眼という水晶で作られた眼がはめ込まれており、補修し元のように装填していきます。
眼になる水晶には瞳を描き入れています。
綿と和紙、木型で玉眼を押さえる構造です。
和紙には何か文字が書かれていて「大仏師…京ぎおん…」と読めます。
ここから江戸時代の京都の仏師が制作したものと推測されます。
どんな方が造られたのでしょうか、ロマンがありますね(^^)
折り方も正確に元に戻します。
修復の原則は徹底して「原状復旧」です(^^)
はめ込んだ玉眼が外れないよう抑えの木型を竹釘で固定します。
この方法は古来から受け継がれている伝統技法です。
御顔が完成したら頭部の組み立てです。
その頭部を胴体に接合します。
接着面を微調整して慎重に取り付けていきます。
御本尊の木地組み立てが完了しました〇
このように両脇が取り外せるようになっているのには理由があります。
答えは後ほど!(^^)
ここからは両脇侍の工程です。
多くのパーツで構成されていますが、こちらも時間をかけて組み立てていきます。
欠損しているところは新たに補填します。
阿弥陀様は西方極楽浄土から観音菩薩と勢至菩薩、その他諸菩薩を従えて往生者を迎えに来られるのですが、その際に観音菩薩が持つ蓮華に往生者を乗せて極楽に戻られると言われています。
今回のように三尊形式で表される場合は、観音様の蓮華が欠損していることが多いです。
欠損していると素手でお迎えに来られることになりますね…(^^;
しっかりと蓮華を持たれることで本来の御役目を滞りなくはたせるのです〇
観音菩薩の頭部にはこのように和紙が収められていました。
勢至菩薩には胴体に収められていました。
和紙を開いていくと、このように文字がしたためられていました。
延宝二年は今から347年前、江戸時代は徳川家綱の時代。
保存状態が良いので347年経ってもハッキリと文字が残っています。
改めてこの時代の和紙と墨の質の高さに驚かされますね(^^)
南無大勢至菩薩「運慶」之作…。
まさかあの運慶の作!? と胸が高鳴りますが、おそらく作風から別の仏師の作であると推測されます。
今ではあまり考えられませんが、この時代は同じ慶派であっても「運」の字を使う仏師もいたでしょうし、運慶は古来から大人気の天才仏師、偽銘も多いのが現状です。
ですがこれは歴史のロマンとして止めておきましょう(^^)
取り出した時の状態に戻し胎内に収めなおします。
木地が組みあがりました〇
ここから塗りの工程です。
下地を何層にも塗り重ね、その都度研ぎあげて表面を整えていきます。
今回は「肩継ぎ」という技法を用いて仕上げていきます。
これは両袖を下地段階で取り外せるようにしておき、先に袖の裏側に漆箔を施しておきます。
その後各パーツを接合して再度下地をし直し、継ぎ目を消していく技法です。
一説には肩を継ぐので「肩継ぎ」と呼ばれています。
このように肩継ぎをすることで、通常金箔を押す(貼る)ことができない衣の奥まで施すことができ、最終的な完成度を上げることができます。
ただ手間と高い技術が求められるので、信頼できる塗師さんとの意思疎通がしっかりとできないとダメなんです(^^)
部分的に金箔を施した部位を慎重に接合していきます。
仏身本体に漆を塗り終えた状態です。
肩の継ぎ目は後に接合します。
ここからは観音・勢至菩薩像の塗り工程です。
御本尊と同様に下地を施し、漆を塗布していきます。
漆塗りの工程が完了しました〇
この漆黒の状態もいいものです(^^)
台座光背も漆塗り完了です。
こちらはご本尊の台座。
各パーツの彫が繊細で各作業には慎重さが求められます。
御本尊の光背です。
雲の彫も細かい!
こちらは観音・勢至菩薩像の台座光背です。
漆塗りの工程が終われば次は箔押し作業です。
今回箔押し作業の写真を撮り忘れました…(^^;
唯一勢至菩薩の肌に金粉を撒いている写真だけ撮っていました。
衣と肌の質感を変えるため、一度全体に金箔を施してから肌の部分だけその上に金粉を施します。
手間は掛かりますが、これをすることで仏様の神々しさがより増すのです(^^)
ここからは観音・勢至菩薩像の宝冠と胸飾り等の修復です。
これも作られた当初の状態に戻すのですが、この作業は飾り金具の職人さんにお願いします。
宝冠や胸飾りも長年の経年劣化で傷んでいますが、補修し再度金鍍金を施していきます。
台座の金具もしっかりとお直しします。
宝冠の完成です!
古いものを修復したとは思えないような出来栄えです〇
胸飾りも完成です!
本体と同様に金具もまた繊細で技巧に富んだ細かい造りです(^^)
最後は彩色作業です〇
頭髪とお顔を彩色していきます。
眉と髭を慎重に描き入れます。
失敗できない一発勝負の作業、来客のない時間に部屋にこもって全集中です(^^)
両菩薩像にも同様に彩色を施します。
完成です!
各工程に高度な伝統技術を注ぎ込み、造立当初の神々しい御姿に戻すことが出来ました(^^)
御本尊の袖の奥の奥まで金箔が施されてるのがお判りでしょうか!?
これは先に紹介した肩継ぎ技法によるもの、なんと神々しいことでしょう〇
このためにあれだけ手間をかけるのです(^^)
観音・勢至菩薩も完成です!
豪華な宝冠と胸飾りで着飾った美しい御姿です(^^)
このような修復には各工程に高い技術が求められます。
今回は木地修復に仏師である私と塗師、箔押し師、飾り金具師と4人の専門の職人で完成させました。
京都にはこういった分業が脈々と受け継がれて高い完成度を保っています。
伝統技術も次の世代にしっかりと継承され、これからの世代の職人さんと共にこれからも制作を続けていきたいと思います(^^)
この他にも様々な修復方法や実績を公開していますので是非ご覧ください!
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