賀茂御祖神社(下鴨神社)では第三十四式年遷宮事業として祈祷殿が新たに新造されます。
この度その祈祷殿にご安置される獅子・狛犬造立という大役を拝命致しました。
神社の記録では白鳳時代作とされる獅子・狛犬が保存されており、今回はその像を元に造立を進めます。
先日はその獅子・狛犬の調査と撮影をしてきました。
国宝の本殿横にある収蔵庫から慎重に運び出されます。
長年の経年劣化で痛みは激しいですが、候補の修復箇所が多くみられ大切に引き継がれてきたのがわかります。
筋肉の造形や各部のバランスが素晴らしく、造形としても秀逸です。
神社に伝わる江戸時代の記録では白鳳時代作とされており、木のやせ方や構造をみても可能性はあるのではないかと思います。
仏像彫刻において白鳳時代は写実表現が試みられ始めた時代。
その目線から見るとこの像がもつ造形美に同様のものを感じてしまいます。
木造で白鳳時代作が確定されると世界最古になるのではないでしょうか、今後の調査が待たれます。
獅子・狛犬は元々天皇即位の際に使われる御帳台の帳を風でたなびかないようにするための重石として使われていたものが時代を経て神格化したとされています。
日本においてはこれまで様々な形が作られてきましたが、この獅子は前を向き、狛犬は大きく右を向く形で作られています。
大変珍しい形ですが、明らかに意図して作られているので今後この意匠の根拠を探っていき造立に生かしたいと思います。
自分と大きさを比較するとなかなかの大きさです。
仏師が神社の獅子狛を?と思われる方もおられるかもしれませんが、元々神道と仏教は明治期までは融合していました。
そして私が崇拝する鎌倉時代の仏師・快慶も神像を制作しています。
ですので長い歴史をもつ日本において仏師が神像を作ることは自然なことなんです。
新たな獅子・狛犬の造立に向け気が昂ります。
調査後、神社の歴史も詳しく教えていただきました。
平安より明治時代初期まで使用された祈祷殿の再建、当時の境内図を見ながら想いを馳せます。
賀茂御祖神社(下鴨神社)の歴史は紀元前まで遡ります。
伊勢神宮に次ぐ社格であり、悠久の歴史をもつ言わずと知れた世界遺産でもあります。
そんな神域に拙作をお納めすることになるとは大変名誉なことです。
京都に生まれ育ち、彫刻と出会い、一心に技を磨き続けた。
そして自然と下鴨さんにお納めするのを夢想するようになっていました。
すると有難いご縁がつながり、最後は神仏に選んでいただいた。
身命を賭して歴史に残る至高の獅子狛を現したいと思います。
(完成予定:来年令和六年一月)
京仏師 宮本我休 拝
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